2023インドの旅 その5
1月26日
さらにカッチの奥地に進む旅が続きます。
この日はまず、在来羊の毛糸を用いて素朴な文様を織り込むヴァンカー(織職人)の村に向かった。壁は漆喰を引っ掻いたような(小鹿田焼みたいな感じ)テクスチャーが面白い。
家の入り口には「トーラン」が飾られている。刺繍やアップリケ、ミラーワークが施された手製の暖簾。
彼らが織る布は「タンガリア」といわれ、もともとはグジャラート州の牧畜民であるバルワールというコミュニティーの女性のスカートとして使われていたそうだ。
現在はNGOと職人が協力し、もともとの伝統を生かしながら布の生産が行われている。
Pit Loomといって、地面を掘ってその穴の中に体を半分入れながら織ります。白い糸をクルクルと回しながら織込み、幾何学的な文様ができあがる。
織り機は全て手作りと思われ、素朴でとても美しかった。織り機だけでなく、家全体、村全体が手作りの質感を感じた。
隣もヴァンカーの家で、木綿のショールらしきものを織っていた。来訪者と分かると、近所の人たちがどこからともなく集まってきて、どこからともなく売り物になる布を広げる。その中から1つ、木綿のタンガリアショールを記念にいただいた。
移動の車中、羊飼いの集団に遭遇する。降りて見に行くと、たくさんの羊! これこそカッチウール!(羊に混じって山羊もいた。)
羊飼いのおじさんは白い衣を纏い手織りのショールを被っている。独特の発声法で彼らを誘導する。杖は自分を支えるためだけでなく、方向を指示するためにも使われた。バルワールと名乗る彼らは、自分たちの暦を持っているそうで、年に2回毛刈りをするそうだ。
羊たちは大半は白い毛で、地面の枯れ草とほとんど同じ色合いだが頭だけは黒い。全身黒い毛の羊も少しいて、白と黒が交配すると白い羊が生まれるので、全身黒のほうがが希少とのこと。
羊は安らかに草を食み、羊飼いのおじさんは美味しそうに煙草を燻らす。カッチの乾燥した大地に寄り添うような自然な生き方...。ぼんやり眺めていたら、あっという間に遠くに行ってしまった。
カッチ初日に訪れたLLDC・ウィンターフェスティバルのテーマ”Pastoral"(羊飼い・牧畜)だった。そして午前中に見たタンガリアの織りは、在来羊の毛糸を用いていた。羊と人の営みをこの目で見ることができ、地域資源を活かして生活する彼らの暮らしが浮かび上がってきた。
さて、願ってもいないラッキーな光景を見たのち、我々の次の目的地に到着した。
Kala cottonといわれるカッチ地方の在来品種の綿畑の見学
冬とはいえ、日差しが強く、立っているだけで精一杯だ。
腰より低いくらいの丈のコットンが一面に広がる。けっして華やかではないが、人の手は最小限、ありのままのワイルドな綿の姿がそこにあった。
案内していただいた農家のおじさん2人は、その佇まいから土に近い暮らしという感じががっつり伝わってくる。動物が畑を荒らすので、夜中も近くで監視しなければいけないらしい。
カーラコットンは乾燥地帯であるカッチの地で脈々と栽培が営まれていた。1990年代に入り、Btコットンといわれる遺伝子組み換えコットンがインド国内の90%以上のシェアを占めるいっぽうで、栽培農家が収穫不良や高額な種、農薬費用による借金苦から自殺してしまうケースが後を立たず、オーガニックコットンに注目が集まる。同時に、カーラコットンにも脚光が当てられた。乾燥地域でも天水のみで成育し、肥料もほとんど必要としない。無農薬なので繊維以外の部分は羊や牛の餌、圧搾し油にするなどの用途がある。限りなくカーボンニュートラルで、農家が無理なく育てられる綿なのである。
現地の農家をとりまとめる団体の男性によると、当初は大手の繊維メーカーから大口の注文があったが、現在は現地NGOが主導権を握り、農家や織り手と連携した生産体制がとられ、年間70〜90トンを収穫している。まだまだ増収は可能とのこと。
在来種の有機栽培で年間70~90トンという数字は、日本の和棉生産事情と比較すると桁違いの規模だ。モヘンジョ・ダロ遺跡から紀元前3000年前の綿が発掘されたインドと、江戸時代に伝播した日本の、綿文化のスケールの違いを感じた。
CALICO小林さんの計らいで、念願のカーラコットンの畑を見学することができ、いい思い出となった。
現地でカーラコットンの糸を少量譲ってもった。家に帰ってから茜で染めて、腰機でタンガリア織を見様見真似で織った。
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