2023インドの旅 その4

1月25日

カッチ地方は手仕事の宝庫といわれている。詳しい話は、CALICOのインド手仕事布案内や、インド大地の布等の書籍を参照されたいが、この日は、そんなカッチの中でもヴァンカールという織職人の一家、ヴァンカー・ヴィシュラム・ヴァルジィ工房へとお邪魔した。

まずはブージの街中から工房のあるブジョディまでの街中のスナップをご紹介したい。

手や体を使ってものを作る環境が残っていると、町全体の空気から創作意欲が伝わってくる。建物の形や色、舗装、看板、バイク、電線、どれも無機物なのだけど、人の手と心が通ってその場所に存在しているように感じる。

ブジからオートリキシャで30分くらい経ったころだろうか、工房に到着した。ブジョディはヴァンカーと呼ばれる織職人の工房がたくさんあるようだが、このヴァンカー・ヴィシュラム・ヴァルジィ工房は筆頭として世界に知られる。

ヴァルジィ氏は、1970年代にそれまでの伝統を脱した新たな織物を生み出し、インド政府からナショナルアワードを受賞した。その息子であるシャムジィ氏は、父の志を受け継ぎつつ、手紡ぎ、天然染料、在来の素材などに着目し、まさに温故知新の布作りを行っている。

私たちが訪問した際、まず最初に実演してくれたのが糸紡ぎ。

今でこそカッチの手工芸の目玉としてカーラコットンやカッチウールが有名であるが、彼が布作りを志した当時は誰も見向きをしなかった。そんな中、手紡ぎ糸の重要性を認識していた彼は、ラバーリーコミュニティーの糸紡ぎができる女性を探し回った。4年間の説得の末、70代の女性を工房に招き入れ、糸を紡いでもらったという。このような地道な活動があってこそ今のカッチの布があるのかと思うと、彼の功績は測り得ない。

この日は、ラック(貝殻虫)の染めを行っていた。色々試した結果、濃く染めるコツをつかんだようで、とても嬉しそうに染めている糸を見せてくれた。


藍染は、専用の建物の中で行われる。地中に甕を埋め、温湿度の観点から素焼き瓦を敷き詰めている。藍建に使う素材は石灰、デーツ、ジャグリー(サトウキビから作られた無精製の粗糖)。すべて天然のものだ。

製法だけでなく、建物の建材、調光、調度品など、すべてにこだわりを感じる。そのこだわりは、現代の大量生産、大量消費からは距離を置き、自然の持っている美しさを最大限に引き出すといったものだろうか。とくにこの藍のための建物はそれが顕著に表れており、ヨーガン・レールのものづくりにあるような崇高さをも感じた。

1980年代に岩立広子が訪れ、彼女の最初の著書「インド 砂漠の民と美」の裏表紙に使われた土壁が現在もそのまま残されていた。

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