2023インドの旅 その1
私は大好きな染織についてのあれこれを、幸運にも仕事にしているのだが、その染織を語る上ではずせないのは何といってもインド。であるはずだが、まだ実際に訪れたことがなく、人とインドの話になっても「実はまだ行ったことはないんですよね」とため息混じりに遠い目をして、彼の地を夢見ていた。
願い続ければ祈りは届くものである。俄に見通しが明るくなり、行けることになったのは昨年の暮れだった。急遽決まった。
すこし混み入った話ではあるが、私は昨今、素材のなかでは木綿に興味があり、日本〜アジアの在来木綿について研究している。その研究調査に僅かではあるが助成金がおりることになったのが昨年12月初旬。そのことをCALICO小林さんに相談すると、ちょうど1月からインド出張があるといい、同じタイミングで現地にいれば、彼女が仕事のフィールドとしている中で、テキスタイル、とくに在来木綿が関係する場所を、ご一緒に案内していただけるという。なんという幸運!
そこから大慌てで準備が始まり、期限切れのパスポートや3回目のワクチン、直前の陰性証明など諸般の難題を年末年始の公的機関のサービス休止に争い、風邪を引きながら瀕死の状態でクリアし(パスポートに関しては日帰りで関東と関西を往復するという荒技で取得)、学生の時からの念願の地にとうとう辿り着いた。
前置きが長くなったが、ついにインドの旅の幕開けである。
1月20日(金)
旅のスタートは古都アーメダバード。クラクションが撒き散らされる雑踏の中で、貧富の差をありありと見せつけられ、日本では感じない強い刺激が身体中を駆け巡る。海外旅行自体がとても久しぶりである。
まずは、事前にネット予約が必須のキャリコミュージアムに赴いた。刺繍布、アップリケ、木版更紗、カラムカリ、ピチュワイ、パトラ...在りし日の珠玉の手仕事の数々は素晴らしかった。しかし語り部の女性のペースでツアーが進み、ゆっくり見られなかったことが悔やまれる。
続いて、アーメダバード郊外サーバルマティーにある、ガンディーが創設した修道場「サティヤーグラハ・アシュラム」。ここもテキスタイルの道に進んだ時から行ってみたかった場所だ。国内で手紡ぎ手織りの布「カディ」を普及するための道場として築いた。現在はその運動を学ぶ場として充実した展示を見ることができる。観光地としても多くのインド人が訪れていた。
1915年に創設されたサティヤーグラハ・アシュラム(真理宣示の道場)
その運動のなかで、ガンディーがインド独立の象徴として掲げたのがチャルカ「糸車」である。場内の一角にガンディーが糸紡ぎをした部屋が残されていた。神聖な空気である。
1月21日(土)
アーメダバードはコルビジェ等のモダン建築でも知られる都市であるが、今回はインド人建築家B.V.Dosi設計のShreyas Folk Museumを訪れた。緑の豊かさとモダンデザインが融合している。展示は質こそキャリコミュージアムに劣るものの、素晴らしいテキスタイルが沢山あった。民俗的な要素が強く感じられ、ガイドもゆったりで落ち着いて見学することができた。ここも地元の名家サラバイ家関係の財団のようだ。
次に向かったのはアートブックセンター。
夕方になって疲れてきたので、たまたま近くに位置していたジャイナ教の寺院に立ち寄った。ジャイナ教は高校の世界史で極端に殺生を嫌う人々だと知っていた、こんなに立派なお寺があるとは! 装飾的なようでいて、素材は石のみというのでさらに驚愕! 彩色等も一切しておらず、禁欲的だけど安らぎを感じる不思議な空気に包まれた。
夕飯は地元の食堂でマンチュリアン・ヌードルという中華料理をインド風にアレンジした焼そば。
アフマダーバードからカッチ地方へ。
今までずっと仕事上で知識を得ていた手仕事の宝庫、カッチ地方に遂に足を踏み入れることができた。
LLDCという施設で Winter festivalが開催されていた。Pastoral=羊飼いというテーマでデシウール(在来羊)の作品や、牧畜にまつわる展示など。
この日はその展示と、LLDCの常設展示をじっくり鑑賞。常設で拝見したLLDCの活動から感じたのは、手仕事である刺繍の文様をプログラミングのように捉えて分類、整理、アーカイブ化していく作業といえばいいのか、その方向性への迷いのなさ、解像度の高さ。
Pastoralと刺繍のアーカイブで情報が整理しきれないが、とりあえず夕方からはライブ鑑賞。カッチ地方とカシミール地方のグループのコラボ。たしかカッチのグループはMzharuddin aliakbar and his group。砂漠で生きてきたことを感じさせる素晴らしい歌。タブラの生音は低音の響きが素敵だ。ターバンや白い服は彼らの伝統的な衣装で皆それぞれにおしゃれです。
0コメント